妖怪大戦争(2005)
2006/08/31 22:23 - や行
悪くない、というよりもむしろ、邦画としてはかなり良い部類に属する映画でしょう。
それゆえ、凡作だったら無意識でスルーしてしまうような、ちょっとした脚本や演出の瑕疵が気に障るのが実に惜しい。
まぁそんな風に完璧さを求めてしまうのも、この映画の出来が良いからこそなんですが。
○原作からここまで削るんならいっそ全カットでいいじゃん? 的な、シナリオ面での異議。
- 川姫と加藤の馴れ初めと確執
- タタル(タダシの姉)関連
下半身が藁人形のままのシーンで、原作に書かれた長年の確執を観客に分からせようとしてもムリあり過ぎです。
「人間になりたくないから人間を憎まない」なんて論理の破綻した絶叫をさせずとも、仲間の妖怪たちを拉致する許せない悪者に対する罵倒で充分。
姉も弟と電話するだけじゃキャラとしての必要はないでしょう。 のっぺらぼうは母と差し替えてオッケー。
○もうちょっとなんとかならなかったんですか? 的な映像面での異議。
- CG全般
造形もチャチ(一反木綿は泣ける)なら、CGと実写の合成もチャチ。 ハリウッドの映像を観た後で、この程度のもんを供せられてもねぇ。
もちろんハリウッドと日本じゃ、かける金がケタ違いだというのは、頭では分かっているけど、でも観客にとっては予算規模なんてあずかり知らぬところ。
特にヨモツモノは、ハリーハウゼンをリスペクトしたつもりなんでしょうがやり過ぎです。 これを観ると「スパイキッズ2」のCGが許せてしまう不思議。
○ここでこういうのはどうよ?的な、演出面での異議。
- 飛行機主翼で「よい子はマネしちゃダメだよ」
- 加藤の野望が打ち砕かれるときのBGMが「あっ、あっ、小豆ずき~」
特に後者は、愚の骨頂と私は認識しています。
あの場面は重々しい映像・BGMで攻めないでどうするというのか。
そうすることによって、日本を破滅に陥れるほどの力を持った魔人が ちっぽけな小豆一粒で滅亡するという、バカバカしさが更に際立つんであって、あんなおちゃらけたBGM流して製作サイドが「ここはバカバカしさを笑うところですよ」なんてアピールしたら、興ざめもいいところ。
それよりなにより一番問題なのは「真っ白なウソ」だの「成長するとはツマラナイ大人になること」だのといった青臭いテーゼで映画を締めたこと。
戦も終わって、妖怪大翁のありがたい御言葉も出て、そして妖怪たちがそれぞれの塒に帰るシーンをラストにせずに何が妖怪映画か。 水木先生の不満もごもっとも。
そして、その帰りの場面があまりにもあっさりし過ぎてるのも許せません。
次に良かった点
○「おお、喧嘩祭か」で乱闘に持ち込むシナリオの妙
原作で一番イラついたのは、ただ単に意味もなく集まってきた妖怪たちが、無為にヨモツモノに踏み殺される場面。
そんな原作のダメなところを、荒俣の捏造設定に沿ったかたちで妖怪たちに反撃させるセリフを思いついた人は実に偉い。
この一言のセリフのおかげで、この映画は駄作を免れたといっても過言ではないと思います。
○着ぐるみ妖怪
非人間型の一部の妖怪は除いて、あくまでも着ぐるみにこだわった制作陣には敬意を表したい。
この実在感というか空気感が、圧倒的迫力をもってせまってくる妖怪大参集と大乱闘のシーンは実にすばらしい。
それにしても、なんでこの場面がこんなに短いのか。 ここに時間をかけずに、どこに時間をかけるべき場面があるというのか。
それよりなにより一番良かったのは川太郎。
一挙手一投足が、河童というものが実在していたら、まさにこういうモノに違いないと思わせる、河童のイデアを演じきった阿部サダオは神。
参考アフィリエイト
原作
-
妖怪大戦争 (角川文庫)
原作者による捏造妖怪観がかなり鼻につきます -
妖怪大戦争 水木版
(単行本)
-
妖怪大戦争 水木版
(文庫本)
戦わない大戦争だなんてたわごとは一切出てこないコミカライズは実にオモチロイ。何が秀逸ってアギじゃなくて魔女花子なこと。水木ファンとしては実に嬉しい。