ウィッカーマン(2006)
2007/09/03 21:06 - あ行
1973年のイギリス映画をリメイクしたアメリカ映画。
中途半端にオリジナルに忠実らしいこの映画を観て痛切に感じたのは、オリジナル映画のDVD(現在廃盤)が出たときに買っとくんだった、ということ。
あの頃はちょっと興味がある程度だったもんで、買ってまではなぁって感じだったんですよねー。
映画関連と神話関連のサイトや書籍で情報を仕入れただけで、オリジナル映画の現物は観ていませんが、おそらくこのリメイクは、オリジナルに比べるといろいろな面でかなりヌルいんだろうなぁということが想像されます。
ああ観たいオリジナルが観たい。リメイクを機に再販されないものか。
このリメイクに対し、私は二つの点で違和感を感じました。
第1点は、アメリカの、しかも個人所有の土地が舞台だということ。
原始宗教というと土着性と歴史性が本質なような気がします。
劇中のセリフで、先祖はケルト信仰の伝わる地域からの移民で云々というのがありました。たしかに理屈としては間違っていませんけど、アメリカのような地域も歴史の長さもまったく異なる場所でケルトがどうのと言われましてもねぇ……
しかも個人所有の土地での出来事なんて言われちゃったら違和感が等比級数的に増加。
オリジナルは、キリスト教を信仰しても何の救いも得られなかったから、古代ケルト宗教を復活させたスコットランドの孤島の共同体の話だそうで、それならなんとなく説得力があります。
第2点は、信仰のビジュアル的な面。
人間を生贄として要求するような古代信仰の祭礼があんなにおとなしいわけないじゃん。
バッコス祭やミトラ、キュベレー、カーリーの祭礼、マヤ、アステカ等の中南米の儀式など、ちょっと思いつくだけでも、血みどろだったり、性的だったり、騒がしかったりするイメージがどんどん思い浮かびます。
実際、オリジナルではヌードや乱痴気騒ぎが出てくるそうなので、古代信仰の姿をわりと忠実に描いていると推察されます。
まぁ現代で、しかもハリウッドスターが出演するような映画だと、そういう描写は難しいのかもしれません。
せいぜい女児に "phallic symbol" なんていうセリフを言わせる程度が関の山なのかも。
でもあんなチンケな描写を以って、古代から脈々と受け継がれた祭礼とか言われましてもねぇ……
特に問題があるなぁ、と思ったのはウィッカーマンの造形。
オリジナルの、左右不対称でいびつで不恰好な造作からは、共同体の全員が、ある目的に向かい一致団結した強いエネルギーを感じます。
信仰に対する思いの深さや純粋さと、それゆえに強固な共同体構成員の絆や、身内でなければその生命を奪うことすらいとわない排他性と利己性までをも想起させるのがオリジナルのウィッカーマンです。
でもリメイクのウィッカーマンは、建機を使って10人程度で組み立てました、的な整い方をしています。
オリジナルのウィッカーマンが持っていた迫力を、あの整った造形からは微塵も感じらず、おおいに醒めてしまいました。
多少は評価できる面もあります。
70年代は、こういう、いやぁな感じの理不尽なエンディングで締める映画がけっこうあったように記憶してます。
勝手に付きまとってきた美しいけど狂った少女に翻弄された挙句、最後は誘拐犯にさせられてしまう中年男の話だとか(タイトルはまったく覚えていないけど、TVでこんなストーリーの映画を観た記憶があります。どなたかこの内容で思いつく映画がありましたらご教示ください)、「ザ・チャイルド」だとかは、かなり不快な後味を残す映画でした。
そういう映画は嫌いじゃなし、ハリウッド風のストーリー構成ばかりじゃ飽きが来るってもの。
これがきっかけになってこういうタイプの映画の復権があると嬉しいなぁ。
でもこの映画、本国でも評判よろしくないようだから(ラジー賞ノミネートらしい)、あんまり期待できないか。