壁男
2007/11/08 21:53 - か・が行
10年~20年前に、大学の映画サークルによって製作された、ちょっとよさげな自主制作映画、という印象を強く受けました。
良い意味では低予算ゆえのフットワークの軽さと、凝ったロケハンや絵作りへの懸命さで資金不足をカバーする真摯さを感じた。 悪い意味では内輪だけで閉じた古臭くてイタいセンスに辟易。
全般的に見ると整理がなされておらず、ごちゃごちゃと無秩序である。けど何となく荒削りだけど良いセンスが見え隠れする、といったところが学生映画的。
鈴チリンチリンから、壁を埋め尽くす本棚やポスター、南方移住、そして私は…… と、映像化の範囲を原作の第2話にとどめておけば、奇妙な味を醸し出した独自な佳品となっただろうに、その先のチープ過ぎる似非ホラーな展開で、せっかくの映画の雰囲気が台無しですよ。
「蛇足」というのはまさにこういうこというんだなあという実例をまざまざと見せつけられました。
ああ、でも蛇足の部分から先は基本的に原作非準拠の監督オリジナルなんだよなぁ。ということは監督にホラーのセンスがないだけなのかなぁ。
というか、そもそも原作はホラーではなく、なんとなく奇妙な雰囲気を漂わせた作品であって、これをホラー仕立てにしたら、原作の持ち味を殺してしまうだけだと思うんですがねー。
ましてや、観客が夢なのか現実なのか訳が分からなくなる物語なんかにしたら、映画自体の焦点がボケまくるだけじゃないですか。
壁男をあえて映像として出さず、建物や地下道や部屋の壁だけを写した映像で不気味な雰囲気を漂わす、CGや特殊効果を使わない低予算を逆手に取った見立ては、観客の想像力を掻きたてる見事な画面作り雰囲気作りになっていた。
そういった、商業主義方面の映画からはあまり得られることのない趣は、とても良かったんですがねぇ……
腕がもげて骨や筋組織がむき出しになった特殊メイクなんていらないでしょう。
二番目に見た夢のシーンで壁から手が出てくる場面があったけど、あれも無用な特効。最初の夢に出てくる響子が壁男の手に肩を掴まれるレベルのチープな撮影で充分。
そして昨今のJホラーで猖獗を極める「無意味な思わせぶり」投入に涙目。
「死んじゃえばいいのに」&掃除中に箪笥の下に隠した箱を開ける女児とか、人形妻に粥をこぼす老人とか、観てる方はシラけるだけなんですが……
身の毛がよだつような恐ろしいエピソードならともかく、怖くも何ともないってのがなぁ。ストーカーの蟹アイコラはまぁまぁ怖かったけど。
おそらくこの監督ホラーにはあまり興味ないのに、売らんかなで無理矢理ホラーにしちゃったんだろうなあ、ってな感じが漂ってきます。
壁男なんて存在しないという設定にして、たった二人が面白半分にでっちあげた作り話が自走を始め暴走に至る過程、群集心理や世間・流行を加速させるマスメディアの巨大で不気味な力に対する不安だけをテーマに絞っていれば、渋い名作になっていたはずなのに。
あと悪い意味で昭和60年代同人映画の腐臭が混入していたのが、これまた残念。
「前衛」のことですよ、監督。
原作はどっちかというとまとまりに欠ける駄作寄りの漫画。
そんな原作の第2話のストーリーと第3話のテーマを組み合わせて、「都市伝説流行の裏に潜む群集心理の底知れぬ不気味さ」と「それを加速するメディアのパワーの不気味さ」を炙り出すような映画に再構成するプロットはとてもすばらしかったと思う。
「夢みる機械」「地下鉄を降りたら」「猫パニック」などを思い起こさせる奇妙な味を持つ映画の可能性を感じさせて実に良かった。
その点はこの監督の感性をおおいに評価したいと思います。
しかし、ところどころに挿入された「なんちゃってホラー」なシーケンスと、カビ臭くてイタい感性が、この映画の魅力をおおいに損ない、結果的に、ビミョーな凡作になってしまったのは、かえすがえすも残念です。
参考アフィリエイト
原作
三田村信行・作「かべは知っていた」
幻想的児童文学作家 三田村信行による、壁に入って抜け出せなくなったお父さんの話(短編)。
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おとうさんがいっぱい(三田村信行)「かべは知っていた」が収録されている短編集。
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妖怪文藝〈巻之弐〉 響き交わす鬼 小学館文庫妖怪アンソロジー本にも収録されています。壁つながりでムリヤリ妖怪ぬりかべにこじつけたお粗末な選。