「墓場鬼太郎」第11話(最終回)『アホな男』雑感
2008/03/24 21:55 - 墓場鬼太郎
「終わりよければすべて良し」と言いますが、逆もまた真なりで、終わりがダメだとそれまで営々と築いてきたものが一瞬にして瓦解するわけです。
放映開始から始終一貫、その作画レベルの高さは溜息をつく以外なす術がないくらい素晴らしいものでした。
一方、脚本はといえば、放映初期は目を覆わんばかりの不出来さ具合でしたが(特に第3話『吸血木』の惨状は正視に耐えない)、回を追うごとに素晴らしいものとなっていきました。
そしていよいよラストの今回。
血液ネタが使えないなら「アホな男」はムリなんじゃないかなぁ、やっぱりヤクザの親分のエピソードはゴッソリ削除して、あの世保険のエピソードだけで一話分作るのかなぁ、と思っていましたが、血液の代わりに原作では放置状態だった毛生え薬を持ってきたのは、ああ、なるほど考えたなぁ、と感心させられました。
「俺のヒゲ返してもうらぜ。チョキンチョキンと」で若返っていた体が急速に衰え死に至るというのは、かなり酷い。
そして原作で一番ユニークな興信所員とヤクザ一味の情報交換が省かれてしまったのは、仕方ないとはいえ、実に惜しい。
さらに単霊動物、複霊動物といった用語が飛び交う、軽々しく説明しかねる宇宙の神秘の話もあっさりしてして、これまた惜しい。
そんなわけで、今回の脚本は、完璧か、と聞かれると考え込んでしまいますが、規制の範囲内ということを考慮に入れると、かなり優れたものに仕上がっていたと言えるでしょう。
にもかかわらずだ! 今回は演出がやらかしてくれましたよ! 何だアレは! タイトルの「アホな男」ってのが誰を指しているんだかよく分かりましたよ全くもう。
「アホな男」所収巻
問題なのは二つあって、まずは止め絵に辞書風な文章。
大方『ブリガドーン』のラストがかなりイケてたんで、背景の地に文字という手法それ自体がクールと勘違いしちゃったんでしょうね
『ブリガドーン』のアレはシチュエーションとビジュアルが揃っていたからこその素晴らしさじゃないのかなぁ。
止め絵はともかく、あのセンスのない文章はマジ勘弁してほしいです。
「生える[自]」までの辞書的語句説明はまだ我慢できるとして、その後に続く「ニョキニョキ」ってなぁ一体何だ。
「トロ[名] 脂が乗っている」…… 「中華料理[名] 美味い只々美味い」…… バカにしてんのか?!
それでも、鬼太郎とねずみ男の攻防戦でのこの演出はまだ我慢できる範疇。
壊滅的にダメなのは落葉親分が「トロだ」「ビフテキだ」「中華料理だ」と貪り食っているときの絵。
乳房と手足のついたマグロだとか、牛頭人身の獄卒風だとか、歯をむいて笑っている豚の群れだとか、その豚の群れを巻き込む長い舌だとか、吐き気を催すほどグロテスクな絵の連続にはゲンナリしましたよ。
おそらく原作の中華料理がけっこうキモい絵(アニメの絵はかなり原作に忠実)だったんでこんな演出したんだろうけど、「墓場鬼太郎」を構成している成分は怪奇とユーモアです。グロ要素なんてありません。
実はこの演出家、最初から最後まで原作を読み違えていたんじゃなかろうか、との疑念を抱かざるを得ない。
とまぁ初っ端から怒り心頭な心理状態にいざなってくれた最終回ですが、終盤はよかったですね。
歩く植物や長さが10キロくらいある名もない生物など、怪奇オリンピックに参加しているモノたちの描写、特に千年に一歩歩く鳥が実に素晴らしい。 原作にはないけれど、鳥が歩く正にその瞬間に水木たちが立ち会うシーンが迫力もあって実に感動的でした。
落葉親分がなぜ招待券もなしに怪奇オリンピックの場に立ち会っているんだ、というのが矛盾と言えないこともないけれど、あのチケットは宇宙の神秘により設定された生者の寿命を無効化して死者化するのがその機能であり、オリンピック見学自体はチケット不要と解釈すれば、もうすでに死者である落葉親分があの場にいることは別段奇異には当たらない。
それよりも、原作では水木のセリフだけだった「現世であくせく働くことの虚しさ」の提示が、アニメでは各人の金、権力、名誉という三位一体として具象化しており、水木しげる死生観をより分かりやすく解説しているという点で、優れたアレンジになっていたと思います。
まぁ、三人も同じようなことを語るってのは、水木作品的にはくどいなぁという感がなきにしもあらずだけど、あれくらい分かりやすくしといた方が万人向けと言えば言えるでしょう。
ってなわけで、あれほど非難していたシナリオを褒め、あれほど賛美していたビジュアルを貶すことになろうとは、意外と言えば意外な最終回でした。
「墓場鬼太郎」雑感これにて一巻の終わり。 次はDVDレビューでお会いすることになるかもしれません。 その前に一回総括入れるかな。
それにしても大塚周夫先生が勘を取り戻してきたところで終了とは実に残念至極であります。