『美しき挑発 レンピッカ展』
2010/05/01 21:46 - アート巡り

平成22年4月29日、渋谷 Bunkamura ザ・ミュージアムで標記展覧会を見てきました。
ある上流階級出身の高慢な女流作家の輝かしい栄光から痛ましい没落まで、作品に刻みつけられた魂の変遷を堪能してきましたよ。
この作家にはその作風によって三つの時期があり、本展覧会ではそれを「狂乱の時代」「危機の時代」「新大陸」という見出しで分類しています。
「狂乱の時代」
人生の絶頂期は、貴族やブルジョア、キャバレー歌手といった社交界の住人たちの肖像画が画題です。
この作家はキュビスムを学ぶことから始まったそうですが、非常に個性的な絵画表現ですね。 強い陰影とグラデーションを持った面によって構成されており、まるでカラフルな鉄板を切り抜いて組み合わせたようで、絵画というよりはデザイン画と呼ぶべき。 実にエレガント、スマート、クール、スタイリッシュな人物画はとても独特で本当にすばらしいものです。
この時期の絵画は "Tamara de Lempicka" をキーワードにして bing の画像検索をかけると良さげなのがザクザク出てきますので、そちらもご覧あれ。
その美しさに陶酔しちゃいますよ。
「危機の時代」
さてそんなブイブイいわせていた彼女に悲劇が訪れます。
1934年の世界恐慌により肖像画の依頼がパッタリ途絶え、加えて鬱病に苦しめられるというダブルパンチ。 そんな作家の心理状態や生活状況を反映して、テーマがガラリと変わってしまいました。

修道女や母子像など宗教的なものや、貧困や難民といった政治的なものを画題として選ぶようになったのです。
しかし注目すべきは、画風が一切変化しなかった! こと。クールでスタイリッシュな絵画表現で描かれた貧困層や難民! この異様なミスマッチはまるで悪夢。
決して不快なものではありませんが、見ていると、不安な響きを心に引き起こされる、とてつもないパワーを秘めた絵画です。
これには非常に大きな衝撃および感銘を受けました。
とりわけ→の作品には魂を大きく揺さぶられて、絵はがきまで買っちゃいましたよ。
「新大陸」
その後、第二次世界大戦を逃れるためアメリカに渡ったレンピッカはさらにガラリとスタイルを変えます。
ルネサンス期風の表現で静物画・風景画を描くようになってしまいました。 なんとビックリ、未来派チックでクールでスタイリッシュな都会派画家が、ミレーやコローなどを想起させる(でもそんな技量はない)田園画家に変わり果ててしまったんです。 「危機の時代」にルネサンス期の作家に傾倒したとのことで、その成果がこの時期に現れたらしい。
もうひとつテラコッタ様式と名付けられる別な作風も模索するんだけど、かつて見られた凛々しくて孤高で豪華といった、輝かしいオーラが完全消滅。
凡百の風景画家に落ちぶれてしまったレンピッカには、私は何の興味も惹かれないので、以下略。
まぁ晩年は不幸な作家ですが、その絶頂期の作品群は、輝きは実にまばゆく煌びやかな、心酔に値する美しさを放っています。
この作家の絵画は個人蔵が多く、これだけ一度に集まることはまずないという。 実に貴重なものを見せていただけたことを感謝いたしとう存じます。