『ルーシー・リー展』
2010/05/04 23:55 - アート巡り
平成22年5月4日、国立新美術館で標記展覧会を見てきました。
ルーシー・リーと言えば思い出すのが1年前の悪夢。
21_21 DESIGN SIGHT において、破廉恥な会場構成者による、鑑賞者が展示物をまともに見ることができない、実に客を馬鹿にした展覧会が催されました。
あそこまで出品者に敬意を払わないなんて常識じゃ考えられんし、鑑賞者にとっても不愉快極まりない、実にストレスフルなものでした。
21_21 のアレがあまりにも無礼なんで、ブリティッシュ・カウンシルが怒って「もう一度ちゃんとした展覧会を催せ! さもないと国交断絶だ!」とでも言ったんじゃないですかねぇ? そうとでも考えない限り、たった1年で、しかし同じエリアで同じ作家の展覧会が催されるなんて異常事態は説明できないんじゃないでしょうか(まぁそれは言い過ぎも甚だしいですが)。
実際のところはどうだか知りませんが、今度の展覧会ではルーシー・リー作品が、ガラスケースの中とはいえ、間近に見ることができました。これほど素晴らしい陶芸作品であったとは! 本当に幸せな時間を持つことができました。
ありがとう国立新美術館。ありがとうブリティッシュ・カウンシル。
ところで、ルーシー・リー作品の魅力は「釉薬のテクニック」と「色の取り合わせの妙」の二つの要素の組み合わせですよね。
釉薬のテクニック
今回、資料展示として釉薬ノートというものが展示されていました。
何を何%混ぜて云々というテクニックメモですが、以下の4つの技法が解説されていました。
- ピンク釉
- 熔岩釉
- マンガン釉
- ブロンズ釉

ピンク釉はその名のとおり、ピンク色を発色させる釉薬調合。 陶芸でピンク色って、あまりお目にかかれないと思うんですよね。 淡い桜色が実に可憐で美しい。もっと濃いピンクも作り出せるようですが、抑えてあるのが美学。
釉薬に不純物が混じっていると、火に掛けたときガスが発生し、泡がはじけて穴ができるそうです。 そういうのは普通は失敗作なんですが、彼女は意図的に不純物を多く混入させた釉薬を塗って焼き、その結果、まるで熔岩が滾っているかの如き、荒々しいテクスチャーを持った、実に味わい深い陶器が完成したとのこと。 その技法を熔岩釉と呼ぶそうです。
ルーシー・リー作品には陶器でありながら、金属光沢を放つものがあります。 これらはマンガン釉という調合法による釉薬がもたらした効果だそうです。 さらに強い金属光沢をもたらすブロンズ釉という調合法もあるとのこと。
色の取り合わせの妙
釉薬による艶やテクスチャー、光沢などの側面だけでも充分素晴らしいんですが、それに色の取り合わせの妙も加わって、さらに素晴らしいものになっていると思います。
白や黒などの無彩色の取り合わせだけの彩色や、白や茶など地味な色による彩色の侘び寂び幽玄。
深い緑、鮮やかな青、目の覚めるような黄といった彩色の華麗さ艶やかさ。
そして色同士のにじみやかすれ。
いずれも実に美しいじゃあありませんか。

そして「スパイラル文」と呼ばれる文様に心打たれました。
螺旋といえば、小は DNA から大は星雲まで、森羅万象のあらゆるところに存在する普遍的な文様。 見ていると、ミクロコスモスやマクロコスモスに思いが馳せます。
個人的な嗜好の問題ですが、私、絵皿みたいに具象的な絵が描かれた陶器は好きじゃないんですよね。鶴とか松とか。
ルーシー・リー作品は基本的に面的な塗りだけで、三角や丸といった抽象図形すらでてこない(線分文様ってのはあるけど。あと初期作品には絵柄っぽいものがあったな)。 あくまでも塗り分け、もしくは土の色の取り合わせで彩色しているところが私の好みに合致します。
人間の作為的な文様を廃することで、カオスやフラクタルといった人間の力を遙かに超越した自然の営みを体感することができると思うんですよ。 器の中に宇宙が読み取れる、とでも言いますか。
いやー、やっぱ国が主催の催しは素晴らしいですね。
国立新美術館では今後、「オルセー美術館展」「マン・レイ展」「ゴッホ展」と、どれも見逃せない展覧会が企画されていて、期待に胸が膨らみまくり夢が拡がりまくりっす。